26日朝06時45分頃、千葉県我孫子市北新田の排水路に掛かる橋の下の草むらで、10歳くらいの女児が倒れているのを釣りに来た男性(49)が見つけ、千葉県警我孫子署に通報した。女児は衣服を身につけていない状態で見つかり、所持品も見つかっていない。女児は現場で死亡が確認され、首に絞められたような痕があったほか、頭部には硬い物で殴られたような痕があったと言う。
千葉県警我孫子署は、千葉県松戸市六実(むつみ)5丁目で24日から行方不明になっていたベトナム国籍で、千葉県松戸市立六実(むつみ)第二小学校3年生のレェ・ティ・ニャット・リンさん(9)と確認し、殺人・死体遺棄事件と断定、千葉県警我孫子署に捜査本部を設置した。
千葉県警我孫子署捜査本部や松戸市教育委員会によると、レェ・リンさんは24日朝08時00分頃、登校のため自宅を出たあと、自宅から直線距離で約600メートル離れた小学校の終業式に向かったが、学校に姿を見せず、そのまま行方不明になった。地域のボランティアが、レェ・リンさんの通学路の学校に近い地点で、子供たちを見守る活動をしていたが、24日はレェ・リンさんの姿を見なかったと話していると言う。千葉県警我孫子署は、レェ・リンさんが自宅を出て間もなく事件に巻き込まれた可能性が高いと見て、聞き込みをしたり防犯カメラの映像を調べてる。
レェ・ティ・ニャット・リンさんは、いずれもベトナム国籍で父親(34)は自営業でソフトウエア開発をしており、それに母親(30)、弟(3)の4人暮らし。家族は2015年12月に神奈川県川崎市高津区から千葉県松戸市に引っ越して来たと言う。24日は学校の修了式で、登校時間の朝08時20分までに姿を見せなかった為、学校から「登校していない」と、連絡を受けた父親が千葉県警松戸東署に捜索願を出していた。
近所の主婦(73)は24日昼頃、他の住民から行方不明になっている事を聞き、26日夕に、レェ・リンさんが亡くなったと知人から知らされた。レェ・リンさんは少し大人びた感じで、同級生と走り回っていた姿が印象に残っていると話し、「活発でしっかりした子がどうして。信じたくない。許されることじゃない」と、声を震わせ首を左右に振った。
また自営業の男性(64)は「言葉にならない。抵抗できない、あんな小さい子を」と、絶句した。
別の女性(37)は「庭の草むしりをしていると『何してるの?』と、声を掛けて来た。明るく人なつっこい子だったのに」と振り返った。
レェ・ティ・ニャット・リンさんが無残なご遺体で発見された事を受け、千葉県松戸市教育委員会の伊藤純一教育長は26日夜、松戸市役所で記者会見し、「誠に残念で悔しい。一日も早く、小さい命を奪った者を探し出して頂きたい!」と、声を絞り出し絶句した。
レェ・リンさんは登校中に事件に巻き込まれたと見られるが、
千葉県松戸市では市内全ての小学校で、集団登校をしていない。引率役となる児童の負担などを考慮しての判断だが、事件を受けて見直しも検討すると言う。
また、レェ・リンさんが通っていた千葉県松戸市立六実(むつみ)第二小学校に、近くスクールカウンセラーを派遣し、児童の心のケアにあたる一方、臨時の保護者会も開き経緯を説明すると言う。
【住民や小学校によると】レェ・リンさんの自宅は校区の端にあり、小学生の足では学校に着くまで15分程度かかり、集団登校はしていなかった。
経路は、自宅を出ると東武鉄道の踏切を渡る。そこから1〜2分歩くと複数の梨農園が広がっている。農園に人の気配は無い。レェ・リンさんが24日朝にどのルートを通ったかは定かでないが、農園に沿った道は住宅が途切れており、一時的に「地域の目」が届きにくい「死角」となっている。
その後は数百メートルに渡って、一戸建てや賃貸アパートが建ち並ぶ。学校に近い交通量の多い交差点は、防犯協会やボランティアの住民がほぼ連日、児童らを見守っていた。自宅からこの交差点まで小学生の足でおよそ10分程度だ。
交差点近くに住む40代の女性は、24日朝も地域のお年寄りが見守っていたのを覚えている。交差点付近は、登校する児童や車の通行が多い。特に朝08時00分前後は通勤や通学で、駅に向かう人や車が最も多い時間帯と言う。この女性は「ここに来る前にトラブルに巻き込まれたのではないか」と推測する。
女性は更に続けて、「先生が下校に付き添う事もあるなど防犯意識の高い地域。こんな事が起こるなんて信じられない」と話した。
他方、レェ・リンさんのご遺体が発見された現場は、国道6号や住宅地から離れた利根川の近くで、一帯には水田が広がる。雨が降った26日は農作業をする人は殆ど見られず、農道には警察車両が止まった。ご遺体が発見された排水路に掛かる橋の近くでは、千葉県警の捜査員が鑑識活動などを行うなど物々しい。街灯などは設置されていない。その為、夜間は真っ暗で、日中も農作業や散歩をする人を除けば、車の行き来も殆ど無いと言う。
日頃から周辺を散歩していると言う千葉県我孫子市の男性会社員(48)は、「車が入って来ないので歩きやすく、散歩にピッタリな、長閑な場所。亡くなった子供は本当にかわいそう。早く犯人を見つけて欲しい」と話した。
【繰り返される悲劇】
また起きた‥‥
2001年の大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件以降、文科省は学校の安全対策を強化。2002年に危機管理マニュアルを作成し、2008年改正の学校保健安全法では、学校安全計画などの策定を義務付け、警察や地域と連携して安全を確保するよう求めてきた。
文科省が防犯、交通安全対策として2015年度に通学路の危険箇所の点検を実施した小学校は99%、中学校は94%に上る。安全確保のための集団による登下校は小学校の63%で実施し、保護者やボランティアによる「見守り活動」も89%が行っている。一方、国でも警察OBが防犯のアドバイスやボランティアの指導をするスクールガード・リーダー配置を促進しているが、通学路や帰宅後に子供が1人になる時間を無くすのは不可能。「死角」が生じてしまうのが実情。
<子どもが犠牲になった主な事件>◆2004年11月 奈良市の小1女児(7)が行方不明となり、遺体で発見。新聞販売店員の男を逮捕。
◆2005年11月 広島市で小1女児(7)が殺害され、ペルー人の男を逮捕。
◆2005年12月 栃木県今市市(現日光市)で小1女児(7)が行方不明となり、茨城県内で遺体発見。2014年に男を逮捕。
◆2005年12月 京都府宇治市の学習塾で小6女児(12)が刺殺され、アルバイト講師の大学生を逮捕。
◆2006年4月 岐阜県中津川市で中2女子(13)が殺害され、高1男子を逮捕。
◆2008年9月 千葉県東金市の路上で女児(5)が遺体で見つかり、近くに住む男を逮捕。
◆2014年9月 神戸市長田区で小1女児(6)が行方不明となり、遺体で発見。近所の男を逮捕。
◆2015年2月 福岡県豊前市で小5女児(10)の遺体が見つかり、男を逮捕。
◆2015年2月 和歌山県紀の川市で小5男児(11)が殺害され、近所の男を逮捕。
レェ・ティ・ニャット・リンさんのご遺体が見つかった現場は、JR我孫子駅の北東約2.5キロメートル付近の水田が広がる地域で、近くを利根川が流れている。